研究員のひとりごと

東京自治研究センター研究員のブログ

ヘリコプターマネー

 このところ、「ヘリコプターマネ―」という言葉が経済誌や新聞などで語られている。日本経済新聞の「やさしい経済学」でも早稲田大学の若田部教授により連載された。

 もともとは、米国経済学者のミルトン・フリードマンが最初に使った「たとえ話」だが、ヘリコプターから貨幣をばらまき、市場経済のお金を増やしてデフレから脱却、停滞する経済に刺激を与えるという荒っぽい話である。

 具体的には、政府が国債を発行し中央銀行(日銀)が直接引き受け、政府は中央銀行が発行したお金で公共事業や現金給付をする方法が分かりやすい。政府と中央銀行が同じ立場で仕組めば難なくできることだが、間違いなく財政規律が政治の力で歪められることから、日本も含めた先進国は財政法で禁止されている。つまり禁じ手となっている。日本の財政法5条にも「すべて、公債の発行については、日本銀行にこれを引き受けさせ、又、借入金の借入については、日本銀行からこれを借り入れてはならない」とある。

 

 しかし、すでに日銀は「大胆な金融緩和」で毎年80兆円もの国債市中銀行から買い増している。直接政府から国債を引き受けている訳ではないが、日銀が確実に国債を買ってくれる訳で「ヘリコプターマネー」的な状態といってもおかしくない。

 

 さらに日銀もマイナス金利に踏み切り、日銀当座預金の銀行のお金は融資先を求め市場に流れるだろうというストーリーである。しかし、実際には資金需要が弱く、年率2%のインフレ目標も実現できていないのが実態である。

 

 いずれにしても、政府債務が1000兆円を超え、歴代政府によって財政規律は押しのけられてきた。万が一にも日本国債の信用が失われれば、国債価格の暴落とそれによる国債金利の上昇でパニックに陥ることを警戒するエコノミストも多い。

 

 そもそも日本社会は人口減少、高齢化の中で潜在成長率そのものが限りなくゼロに近づいているのである。金利を引き下げる(マイナスにする)金融緩和や市中に出回るお金をやたらに増やす「異次元の量的緩和」は、一時的な株高現象はあっても、人々が将来に希望が持てるような、落ち着いた経済社会を生み出すベクトルとは真逆にある。過度な競争とマネーゲームで格差が拡大し、若者は将来不安を増幅させ、高齢者は消費意識を縮小させることにしかならない。現実がこれを実証している。

 

 アベノミクスは失敗したというだけでなく、「経済成長」という衣を着て人々に痛みと不安を与えている。「強い日本を取り戻す」というスローガンと引き換えに、一方で「沖縄辺野古新基地建設強行」、「原発再稼働」、「集団的自衛権行使容認」など、民意を無視して強引に進める。これはまさに『三本の毒矢』である。

 

参議院選挙は終わったが、「ヘリコプターマネー」という言葉から、人々にとっての経済とはどうあるべきかを考えてみたい。