研究員のひとりごと

東京自治研究センター研究員のブログ

地域からの発信 集団的自衛権

 7月1日、安倍内閣は臨時閣議で集団的自衛権の行使容認を閣議決定した。

 憲法9条に関する歴代内閣の解釈を本質的に転換したもので、立憲主義をも否定する暴挙といえる。

 これに対して、200近い地方議会から反対を趣旨とする意見書が可決されている。東京でも、小金井市国立市西東京市、八王子市の各議会で反対の意見書を可決した。(6月末)

 今回は、八王子市議会の意見書を紹介する。

 また、一般社団法人八王子自治研究センターからも声明が出されたので掲載する。

 

八王子市議会

      集団的自衛権行使容認のための憲法解釈変更に反対する意見書

 5月15日、安倍総理は、総理の私的諮問機関である、安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会からの答申を受け、これまで日本国憲法第9条の規定により、行使することが禁じられてきた集団的自衛権について、限定的にその権利を行使することを検討するという方針を表明した。さらに安倍総理は、与党内協議が整えば、閣議において集団的自衛権の行使を可能とするよう、憲法第9条の解釈変更を行う意向を示している。

 我が国が独立国である以上、主権国家が持つ固有の権利である自衛権を有していることは言うまでもない。集団的自衛権は、個別的自衛権と同様に、国際法上、主権国家が等しく有する自衛権であり、我が国もその例外ではない。一方で、憲法第9条の下では、これら自衛権の行使を許容する範囲について、それは我が国を防衛するための必要最小限度の範囲内にとどまるべきものであり、他国に加えられた武力攻撃に対し実力をもってこれを阻止することを内容とする集団的自衛権は、許容し得る範囲を超えるものであって、個別的自衛権とは性質的に異なり、行使することは許されないと解されてきた。今回安倍総理が表明したように、集団的自衛権について、これを「限定的」であれ行使するという場合には、現在までの解釈を正面から否定し、覆すことになることは言うまでもない。

 このような憲法解釈の変更が行われることになれば、憲法の法的安定性が大きく損なわれることになるだけでなく、立憲主義に基づく、国家権力の憲法による制限と、その合法性が形骸化する事態になりかねない。

 よって、八王子市議会は、国会及び政府に対し、集団的自衛権行使容認のための憲法解釈変更に反対する。

 以上、地方自治法第99条の規定により意見書を提出する。

  平成26年6月24日

衆議院議長

参議院議長

内閣総理大臣

総務大臣    あて

 

一般社団法人八王子自治研究センターの声明

      集団的自衛権の行使容認と憲法解釈変更の閣議決定に関する声明

 

                     一般社団法人八王子自治研究センター

                              理事長 藤岡一昭

                   1

 安倍内閣は7月1日の臨時閣議で、他国への攻撃に自衛隊が武力で反撃する集団的自衛権の行使容認と、それお合憲とする憲法解釈の変更を閣議決定しました。また、国連平和維持活動における自衛隊の武器使用拡大、自衛隊の後方支援について「非戦闘地域」に限るとしたこれまでの制約の撤廃なども決定しました。さらに、これらを可能にするための自衛隊法、武力攻撃事態法国民保護法、その他関連法の改正を国会に提案するとしています。

 本年5月15日、安倍首相は私的諮問機関である「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」報告を受けた記者会見で「限定的に集団的自衛権を行使することは許されるという考え方について研究を進め、憲法解釈の変更が必要であれば閣議決定する」と表明し、わずか1ヶ月半後の閣議決定となりました。

                  2

戦後歴代内閣は、集団的自衛権の行使は憲法9条のいかなる解釈をもってしても禁止されているとしてきました。言い換えれば、集団的自衛権の行使には、解釈ではなく憲法改正という国民参加の慎重な合意形成が必要である、という考え方でした。

憲法は国家の基本法であり、内閣はもちろん国会や司法もその枠組みの中で存在します。一内閣が、憲法の条文を変えずに、解釈によって「今までできなかったことをできるようにしてしまう」ということは許されるはずがありません。

この意味で、今回の閣議決定は事実上の解釈改憲であり立憲主義の否定です。

                  3

 閣議決定の内容を読むと、さらに危険な論理が組み合わされています。

 「日本はこれまで憲法の平和主義のもとで経済発展を成し遂げた。しかし安全保障環境は変化し、脅威は拡大している。もはや一国のみで平和は守れない。国民の生命、自由及び幸福追求権が覆される事態に、政府は国民の命を守る責任がある。そのために必要最小限の集団的自衛権行使は憲法上許される」というものです。つまり周辺状況が変化すれば、これまで憲法上禁止されていたことも許される、という危険な論理です。武力行使新三要件もこの考え方の上に成り立っています。

 さらに閣議決定後の首相会見では、「現行の憲法解釈の基本的な考え方は変わらない」「(集団的自衛権行使と言っておきながら)海外派兵は一般に許されないという原則は変わらない」「今回の閣議決定で日本が戦争に巻き込まれる恐れは一層なくなる」と真逆な説明がされました。

 これに対して中国外務省は「安倍内閣は戦後の平和の歩みを大きく変えようとしている」とし、国営中央テレビでは「軍国主義に突き進む」と報道されました。韓国外務省は「平和憲法に従った防衛政策の重大な変更と見て鋭意、注視する」としています。

                 4

 一方、6月末までに八王子市議会も含め地方192議会で集団的自衛権行使容認に反対、ないし慎重な対応を求める意見書が可決されました。

 また多くの自治体首長も懸念を表明し、違憲訴訟を準備する動きもあります。

 八王子自治研究センターは地方自治と住民福祉、自立した地域社会をめざしこれまで活動してきました。平和な社会と民主主義がなければ地方自治は成立しません。その基本は平和憲法立憲主義です。

 この立場から、今回の安倍内閣による憲法解釈の変更と集団的自衛権の行使を容認する閣議決定については、到底容認できるものではなく強く反対します。

また今後予測される関連法に関する国会審議について、立憲主義の立場で解釈改憲違憲性を追及するとともに、司法においても違憲審査権の行使を要望します。