研究員のひとりごと

東京自治研究センター研究員のブログ

川内原発、自治体合意で再稼働か  原子力規制委員会「適合」判断

 7月16日原子力規制委員会は定例会合で、九州電力川内原発1,2号機(鹿児島県薩摩川内市久見崎町)について原発の新規制基準を満たしているとする判断を下した。安倍政権は規制委員会の基準を満たせば、それを根拠に地元自治体の合意で再稼働する考え方である。

 しかし周辺住民の避難計画は規制委員会の審査対象外であり、原発そのものについても①過酷事故の際、格納容器の圧力を下げるためのフィルター付きベントが未設置。②事故対応にあたる作業拠点は未完成。③制御室が使用不能となった場合に使う第二制御室も未完成。…など見切り発車状態にある。火山想定なども未知数のままである。

 規制委員会の「安全基準」は、従来の基準を上乗せして作っただけで、福島原発事故の原因さえ明確にされていない中での規制委員会の対応と政府の動きは、再稼働を前提とした出来レースと言わざるを得ない。。

 原子力規制委員会田中委員長は「どんな考え方で基準を作り、同審査し判断したかを言うだけ」で、再稼働の判断は「事業者と地域住民、政府の関係者が決めること。規制委員会は関与しない」と述べた。事実上の再稼働への「お墨付き」を与えておきながら、「堂々たる責任回避」である。新原子力ムラ誕生の瞬間かもしれない。

 そして最終的な原発再稼働は、政府の支援なしには生きていけない『弱い弱い地元自治体』の意見ということになる。意見というより合意の強制なのかもしれない。住民の命や子どもたちへ引き継ぐべき大地より、目先の食い扶持を餌に、不本意な選択を強制されるのである。罪作りな安倍政権であり、日本社会の冷たさを感じる。

 福井地裁の「大飯原発運転差し止め判決」が踏みにじられる思いである。

 

 ところで、この事態に新聞各紙はどう反応しているのだろうか?おおよその察しはつくが、改めて17日付社説を掲載する。

 

 

【7月17日各紙社説】

朝日新聞 原発再稼働を問う―無謀な回帰の反対する

原発事故が投げかけた日本の社会と政治全体への問いかけに答えぬまま、再稼働をめぐる議論が原発の性能をめぐる技術論に狭められた。

原発事故がいまだ収束していない中での暴挙。

・阿部政権は規制委の審査が安全確保のすべてであるかのような姿勢である。

・火山噴火対策も確証がなく、不十分。新基準への適合は決して「安全宣言」ではない。

・避難計画が描けていない。政府は住民の避難を自治体に丸投げしている。

・防災重点区域が30キロ圏内に広げられたにもかかわらず、再稼働への発言権は立地自治体だけというのはおかしい。

・(朝日新聞は)社説で「原発ゼロ社会」を提言し、実際原発がすべて止まっても混乱していない。

福井地裁判決の、「豊かな国土に国民が根を下ろした生活が国富」であり、エネルギー政策は経済の観点だけでは語れない。最終処分問題も含め議論せずに再稼働を進めてはならない。

読売新聞 川内原発「合格」 再稼働への課題をこなそう

原子力発電所の再稼働に向けて前進したが、実現への課題も多い。地元の同意取り付けなどを着実に進めることが重要である。

・新規制基準は、東京電力福島第一原発事故を踏まえ、厳格な安全対策を求めている。川内原発が国内の原発として初めて新基準をクリアし、安全性が確認された意義は大きい。

九電は、備えるべき津波の高さを従来の1・5倍、地震の強度は1・15倍に引き上げた。これに基づいて、浸水対策や設備の耐震補強を進める。

・もう一点は、福島第一原発事故のような冷却機能の喪失による重大事故を防ぐため、どのような対策を取るかである。非常用電源の増設や取水ポンプの補強、冷却用配管の多重化などの対応策が評価された。

・地元自治体の理解を得ることも重要だ。川内原発の安全性と再稼働の必要性について、九電はもとより、政府が責任をもって関係者に説明すべきである。

・万一、事故が起きた場合の避難計画についても、住民への周知徹底が求められる。

川内原発の審査書案は、事故対策の審査経緯を詳しく記述している。これを参考に、電力会社は的確な審査準備に努めてほしい。

・一方、地震津波の想定に関する判断の理由は、ほとんど記述されていない。規制委は根拠を明示する責任があるのではないか。

 電力供給は綱渡りで、料金高騰が生活と産業を直撃している。安全審査を加速させ、原発の再稼働を軌道に乗せねばならない。

 

毎日新聞 川内原発再稼働へ 教訓学ばぬ見切り発車

九州電力川内原発1、2号機(鹿児島県)について原子力規制委員会がまとめた審査書案は、事実上の「審査合格」を意味する。

・新規制基準に基づく川内原発の再稼働は、過酷事故を経て、日本が再び「原発を活用する国」に戻る転換点となる。

・私たちはこれまで、原発に頼らない社会をできる限り早く実現すべきだと主張してきた。

・一方で、そこに至る過程で、必要最小限の原発再稼働を否定するものではない。

・ただし、条件がある。福島の教訓を徹底的に学び取り、過酷事故を防ぐと同時に、再び事故が起きても住民の被害を食い止める手立てを整えておくこと。さらには、政府が脱原発依存の道筋を描いた上で、エネルギー政策全体の中に原発の再稼働を位置付けることだ。

・いずれの点でも、現状で川内原発の再稼働は合格とは言えない。このままでは、原発安全神話の復活につながる懸念が大きい。

・福島第1原発事故後、政府は事故に備えた重点対策区域を原発から8〜10キロ圏から30キロ圏に拡大した。ところが、第5層の防災対策は災害対策基本法で自治体任せにされ、規制委の審査対象から外れている。

・県は10キロ圏までの避難計画を公表したが、伊藤祐一郎知事は「30キロ圏までの要援護者の避難計画は現実的ではない」と発言した。対象となる要援護者の数が増え、避難手段や受け入れ先の確保が難しいことが背景にある。これは、他の原発立地地域にも共通する課題だ。これでは、防災対策は置き去りにされていると言わざるを得ない。

・「基準さえ満たしていれば十分」との姿勢は福島の事故後、海外からも非難されたことを忘れてはならない。

・さらに大きな問題は、政府が「原発依存をできる限り低減する」としながら、その道筋を示さずに再稼働を進めようとしていることだ。

 

 

日本経済新聞 川内再稼働へ国は避難計画で責任果たせ

原子力発電所の「稼働ゼロ」の解消へ前進といえるが、再稼働にはなお多くの課題が残っている。

・審査書案自体は妥当だろう。基準の大枠を満たしているといえる。

・だが審査合格は再稼働の必要条件のひとつにすぎない。再稼働には地元の自治体や住民の理解が欠かせない。安倍政権は安全性が確認できた原発の再稼働について「国が前に出て地元の理解を得る」とした。電力会社まかせにせず、国がやるべきことは多い。

・まず規制委の説明責任は重い。鹿児島県や地元市町は住民向けの説明会を予定している。そうした場に委員が出向き、審査経過を丁寧に説明するのは当然だ。

・政府も再稼働がなぜ必要か、国民に説明を尽くすべきだ。事故が起きることも想定し、被害を最小にする態勢づくりも国の責任だ。

・福島の事故後、原発30キロ圏内の自治体は防災計画が義務づけられ、川内では周辺9市町すべてが計画をつくった。だが高齢者や子どもらが安全、迅速に避難できるのかなど、課題が多い。

・規制委は川内のほか11原発17基の安全審査を進めている。川内原発九電地震津波を厳しめに想定し、規制委は優先的に審査してきた。

・手際の悪さや時間がかかりすぎた印象はぬぐえない。審査体制を見直し、規制委と原子力規制庁の役割分担を明確にし、審査官の増員考え、原発の安全性をないがしろにすることなく、審査を迅速化することはできるはずだ。

 

産経新聞 川内再稼働 早期実現でリスク減図れ

九州電力川内原子力発電所1、2号機(鹿児島県薩摩川内市)の安全性は、福島事故を教訓とした厳格な新規制基準を満たす水準に達していると原子力規制委員会によって判定された。

・国内の全原発48基の停止が続く状況下で、再稼働への扉が開かれようとしていることについては歓迎したい。だが、大規模停電が心配されるこの夏に再稼働が間に合わないのは重大な問題だ。

自民党国会議員の間でも規制委に対し、審査の迅速化を求める声が上がっている。原発停止で余分にかかる火力発電の燃料輸入代が年間3・6兆円に達している現状を考えれば、当然の要請だ。

・規制委の対応は、国力の低下や大規模停電の発生といった社会的リスクの増大は、一顧だに値しないとするかのような印象を与えている。国の行政機関がそれでは責任を果たせまい。

・今回の審査書案作成の経験を、後続する原発の審査加速に生かすべきだ。関西電力高浜3、4号機や四国電力伊方3号機などへの再稼働の連鎖を期待したい。

 国も原発の必要性の説明に多くの汗を流すべきことは当然だ。

 

東京新聞 川内原発・審査「適合」 ゼロの目標はどこへ

・一昨年九月の「革新的エネルギー・環境戦略」で、二〇三〇年代に原発をゼロにする方針を打ち出した。

・規制委の基準を満たす原発は、当面の稼働を認めるが、四十年で廃炉にする、新増設はしない。そうすれば最も新しい原発の寿命が尽きる二〇三〇年代に、原発は自然にゼロになる、という道筋だったはずである。

・規制委の審査には、四十年寿命、新増設はなし、という大前提があることを忘れてはならない。従って、新基準への適合とは、せいぜい、当面の稼働を認める仮免許といったところだろう。

・「二〇三〇年代原発ゼロ」は政権の独断というよりも、一定の民意を集めて成り立った。

・ところがその後、自民党政権は「二〇三〇年代原発ゼロ」を「具体的根拠が伴わない」とあっさり覆し、今年四月に閣議決定した国のエネルギー基本計画の中に将来的にも「重要なベースロード電源」とあらためて位置付けた。新増設も否定していない。

・規制委が昨年夏に定めた規制基準を「世界で最も厳しい水準」として、それを満たした原発を速やかに再稼働させる姿勢を明らかにした。

・新基準は欧州のように、メルトダウン炉心溶融)に備えるより根本的な改善を要求するものではない。当面の対症療法を求めていると言ってよい。だからこそ、原発を持つ電力会社が比較的短期間で申請書類を整えることが可能になっている。

活断層に厳しいと言われた委員を辞めさせて、原発関連企業から寄付や報酬を得ていたような人物に入れ替えた。規制委の生命線である信頼性が保てなくなる。

・隣県に原発のある滋賀県民は先日の知事選で、隣県の原発事故に影響される「被害地元」の住人として、「卒原発」の民意を突きつけた。

福井地裁はこの五月、大飯原発の差し止めを命じる判決を出している。地裁の判断とはいえ、憲法の保障する人格権の見地から考察を加えている。規制委の審査とは違う視点もある。

・なし崩しの再稼働は、かえって国民の不信を深めるのではないだろうか。

 

南日本新聞 川内原発「合格」  まだ安全とはいえない

九州電力川内原発1、2号機の再稼働の前提となる審査を進めていた原子力規制委員会が、合格証の原案となる審査書案を了承した。事実上の審査合格である。

・今後再稼働への動きが加速することになるが、忘れてならないのは、新基準は電力会社が取り組むべき最低限の安全基準であるという点だ。九州電力は合格に気を緩めず、住民の不安を払しょくできるよう丁寧な説明を尽くすとともに、さらなる安全性向上に努めなければならない。

九州電力は昨年7月8日の新基準施行日に審査を申請した。審査の過程で、難関とされた耐震設計の基準となる地震の揺れ(基準地震動)や津波の大きさを大幅に見直したことなどが評価され、ほぼ同時期に始まった原発のなかで優先して審査が進められていた。

・ただ、多くの電力会社は新基準が求める事故解析や地震評価をせずに申請したり新たな課題への対応をメーカーなどに丸投げしたりするなど、福島の事故がどこまで教訓になったのかは不透明だ。

・一方の規制委は、付近に桜島などがある川内原発は全国で最も火山リスクが高いなどとの指摘が相次いだことから、国際原子力機関IAEA)などの指針を基に火山影響評価ガイドを策定した。

・しかし、規制委は「危険性は十分小さい」と判断し、対策は「監視」止まりだった。川内原発の敷地には過去の巨大噴火で火砕流が及んだ可能性が高く、同様の事態が起これば防御はほぼ不可能とされる。国の原発規制基準は火砕流が直撃し得る場所での原発建設を禁じており、規制委が危険性をどこまで十分に審議したのか疑問が残る。

・新基準には新たな研究成果などを取り入れて、運転中の原発に対応を求める制度も導入された。規制委は今後も火山リスクなどの分析を進め、新たな知見が示された場合には重大な決断を下す覚悟が求められる。

川内原発については、事故に備えた住民の避難体制づくりなどの課題も残る。審査に合格したとはいえ、再稼働の前にこうした問題の解決を優先すべきだ。