研究員のひとりごと

東京自治研究センター研究員のブログ

朝日、読売、毎日、東京、日経、沖縄タイムス、琉球新報の元旦社説概要を掲載します。

2015年 1月1日 社説

【1.朝日新聞】 グローバル時代の歴史 「自虐」や「自尊」を超えて

・歴史の節目を意識する新年を迎えた。戦後70年、日韓基本条約50年の節目でもある。

・自虐や自尊といった中での歴史認識が課題。自国のみの歴史観では済まない時代に入っている。

・「グローバルヒストリー」(入江昭『歴史家が見る現代世界』)の重要性。もともと存在しない純粋な過去、例えば純粋な日本に置き換え歴史の物差しにすることは、歴史を神話にすり替えること。

・日本人、韓国人、中国人がナショナルヒストリーから離れられない現実が歴史認識の根本問題。

・グローバル時代にふさわしい歴史を考えようとするならば、歴史は国の数だけあっていいということにはならない。

・自国の歴史を相対化し、グローバル・ヒストリーとして過去を振り返る。難しいが挑戦すべき。

 

【2.読売新聞】 日本の活路を切り開く年に 成長力強化で人口減に挑もう

・デフレからの出口を見失うことなく、強固になった安倍政権は経済再生を最優先に、社会保障、外交・安全保障など一層強化すべき。

・戦後70年、団塊の世代が65歳以上となり人口減少など国力低下を防がなければならない。

・冷戦終結から四半世紀、国際秩序は新たな危機。米国の影響力低下、中国の台頭、国際テロ活動、グローバル経済の動揺など日本を脅かしている。

・内外ともに重要局面を迎え、平和で安定した国民生活の維持へ活路を開く節目の年に。

アベノミクスの補強を>

衆院選挙で有権者アベノミクス・与党に軍配を上げた。しかし、課題もありアベノミクス第3の矢である成長戦略の強化が急を要する。

・岩盤規制を打破し、産業の新陳代謝と規制改革を成長戦略の柱とすべきだがまだ不十分。農業、医療分野、原発再稼働、TPPなどが課題。

・企業も賃上げや雇用増を。企業減税の検討も。

<雇用充実が活力の源泉>

・人口減少、生産年齢人口の減少を前に、女性、高齢者の雇用、非正規労働者の処遇改善、地方の活性化で雇用増を。

社会保障制度改革も急務。医療、介護の公的支出の効率化を。

・国際的な信認を維持するためにも財政健全化を。

<台頭する中国に備えよ>

・ロシアのクリミヤ編入、イスラム国など国際秩序は混乱している。

・国際秩序が乱れることで日本の安全も損なわれる。中国の行動には警戒を怠れない。中国は依然として力による現状変更を目指している。

・中国経済は高度成長から安定成長への移行期にある。中国は日本の経験に学び、戦略的互恵関係を築くべきだが、産業構造の転換にともなう不満を対外強硬姿勢で乗り切ろうとするならば危険は増す。

・中国の動きに備え、集団的自衛権行使容認に踏まえ、切れ目のない安全保障体制は不可欠。

<欠かせぬ日米同盟強化>

・日米同盟強化と沖縄基地負担軽減のための辺野古移設は肝要。一部野党の反対も根強いが着実に進めるべき。

・戦後70年で歴史認識も問われる。慰安婦問題のいわれなき誤解を解く一方、首相の靖国参拝など中国や韓国に対日批判の口実を与えるような行動は慎みたい。

イスラム国などテロ対策での連携も強めるべき。

 

【3.毎日新聞】 脱・序列思考のすすめ 戦後70年 日本と東アジア

・戦後日本は、貧しかったが平和の中で屈託なく、希望に満ちていた。しかし戦後70年の今、得体の知れない不安と苛立ちが覆っている。

<強いアジアと向き合う>

・不安と苛立ちの原因は、中韓反日感情と日本の反中・嫌韓感情の衝突にあり、その背景には戦後70年で中国、韓国の国力が日本に迫り越えているという現実がある。

・日本は明治以来、遅れたアジアと距離を置き、欧米を手本に先進国を目指した。その結果、帝国主義軍国主義に陥り破滅を味わった。戦後は経済大国をめざし、一時アジアでトップとなった。

・しかし、中国と韓国の興隆は歴史の必然であり東アジアの力関係の変化を受け止め、立ち位置を見つめなおすことが必要。

・アジアの中の序列意識は時として他者を否定し自己を肯定する優越意識に陥りかねない。反中・嫌韓意識がヘイトスピーチ(憎悪表現)を生み出す。

<等身大の日本に誇りを>

・「世界の真ん中で輝く日本」(安倍首相)、「中華民族復興の夢」(習近平国家主席)がぶつかる構図は、時代遅れの盟主争いであり、東アジアの潜在力とダイナミズムを失わせる。

・対立を繰り返してきた欧州はEUで「平和の制度化」に成功した。序列よりも並列という意識が定着してきたことを学ぶべき。

・日本の役割りは「大国残存ナショナリズム」を振りかざすことではなく、優越主義のアジア観を排し、中国、韓国とともに東アジアの和解と連帯に取り組むことにある。

・国の力とは多元的なものであり、力と強さだけが尺度ではない。どの国にも誇りうるものがあり、序列思考の呪縛から解き放たれ、互いを尊重する新たな地平を築くことが本当の意味での戦後レジュームからの脱却と考える。

 

【4.東京新聞】 戦後70年のルネサンス 年のはじめに考える

・貧困、格差、独占資本、搾取という言葉が思い浮かぶグローバル経済の時代に対して、戦後70年の今年は人間回復のルネサンスにしたい。

・ピケティ「21世紀の資本」はグローバル経済を放置することによる(百年前の)格差の拡大に警告し、資産への累進課税や国際的なグローバル資産課税を提唱している。

・百年前、第一次世界大戦ロシア革命の時代、資産階級の富の奪い合いの中、貧困と格差が拡大した。

・一方英国ロイド・ジョージは、資産課税を強化し、南ア収奪のためのボーア戦争に反対し(「英国益」に反対)、非戦論を展開した。

・戦後、民主主義のもとで所得再分配機能や社会保障制度が整えられた時代だが、グローバル経済が(国益競争と称して)労働分配率を削減し、新帝国主義と排外主義を拡大している。

・資本中心から人間中心の社会を取り戻さなくてはならない。無理な成長を求めない定常型社会を。成長より社会の安定の価値観が肝心。

・戦後70年、「先の大戦を米国から強いられた『太平洋戦争』ではなく『大東亜戦争』と呼ぶべき(松本健一)」とは、米国との戦争に敗れたのではなく、中国への侵略戦争に敗れた、という認識を持つべきとの意味。

歴史認識の根底に、日本人は中国への侵略戦争に敗れたという理解はあるのか、と問いたい。

・戦争での新聞の痛恨事は、戦争を止めるどころか翼賛し煽り立てたこと。

・その反省に立ち、新聞もまた国民の立場に立ち、権力を監視する義務といわねばならぬことを主張し、その営みが歴史の評価にも耐えるものでありたい、と願う

 

【5.日本経済新聞】 戦後70年の統治のかたちづくりを

・2015年は戦後70年、歴史を振り返る節目の年である。

  自民党が結党して60年。日韓国交正常化から50年。先進国サミットから40年。プラザ合意から30年。世界貿易機関(WTO)から20年。京都議定書から10年。‥内政、外交、経済の枠組みができた。

<きしむ戦後の世界秩序>

・冷戦が終結し25年がたつ。民主主義と自由主義経済で、世界は米国を中心とした一極支配になるかと思われたが、中国の台頭などグローバル化が進み「Gゼロ」の時代となった。

グローバル化は一方で格差の一因にもなった。政治はナショナリズムをあおり、中露による新たな枠組みやイスラム国、スコットランドカタルーニャの独立運動など世界秩序はきしみだしている。

・経済も世界銀行、IMF体制など国際秩序がアジアインフラ投資銀行の設立の動きなどできしみだしている。

・そこで、米国を中心とするG7と新興国参加のシステム作りが必要となる。中国を排除した世界の枠組みはあり得ない。

・日本も新たな統治のかたちづくりが求められているが、自民党1強体制で国会のチェック機能は弱い。

<視線は過去より未来へ>

・保守的なイデオロギーが強い若手議員が多数を占めている中で、戦後70年の今、歴史問題への配慮が必要となる。戦争への反省を踏まえ、平和国家としての70年の歩みを改めて確認すべき。日露戦争後の日本を憂えた朝河貴一元エール大教授「日本国民はその必要の武器たるべき、健全なる国民的反省力を未だ研磨せざるなり(日本の過機)」から1世紀、反省力を研磨したであろうか。

 

【6.沖縄タイムス】 「戦後70年の分水嶺」暮らしと平和守り抜く

・鉄の暴風から70年、沖縄、日本社会は将来を決定づける重要な分水嶺を迎えている。日本社会は、第一に経済格差、第二に世代間の亀裂、第三に都市と地方の亀裂という三つの社会的亀裂(佐々木毅東大名誉教授)で分断化が進んでいるといわれるが、沖縄とヤマト(政府)の亀裂も深刻である。

・昨年の名護市長占拠、県知事選挙、衆議院選挙辺野古移設反対派が勝利した。沖縄の戦後体験に根ざした、非暴力抵抗運動としての民意である。辺野古や高江の座り込み、普天間ゲート前抗議行動は保革の枠を超える新しい運動。

・「沖縄に寄り添う」(安倍首相)なら、埋め立て工事計画を中止し話し合いをすべきである。しかし政府は、翁長新知事の会談申し入れを無視し沖縄振興予算の削減をちらつかせ、埋め立て工事の再開の構えを見せている。牙をむいて沖縄県民に襲いかかろうとしている。沖縄差別そのものであり、代表制民主主義の否定。

・翁長知事には、戦後70年の劈頭に立って「平和とくらしを守り抜く」というメッセージを発信すると同時に、県内外の専門家も含めた応援団の形成、ネットワークづくりが急務。

 

【7-1.琉球新報】 2014年回顧 新たな時代の幕が開いた 犠牲拒む意思を示した年

・「オール沖縄」を標榜した翁長知事が誕生した。新たな幕開けを示す歴史的な意義がある。

<自決権回復の試み>

名護市長選、県知事選、衆議院選すべてに移設反対派が勝利した。これらの意思表示は自己決定権の回復宣言でもある。

・これは単なる現状変更の要求ではない。琉球王国時代から太平洋戦争、サンフランシスコ講和条約といった、沖縄を「質草」扱いしてきた史実に踏まえた意思表示。不可逆的で後戻りできない要求。

・「移設を粛々と進める」(菅官房長官)は明らかに沖縄の(民意を)軽く見ている。

沖縄県民の闘いは国際社会から見ても正当な闘い。

・沖縄の自己決定権回復の歩みはこれからが本番。着実に前進を。

【7-2.琉球新報】 新年を迎えて 未来への責任自覚を 「豊かな沖縄」起点の年に

・自己決定権を行使した「移設の」の民意を背景に、「豊かな沖縄」を実現する責任を自覚したい。

<反省の継承必要>

・「戦争の世紀」20世紀が終わって15年だが、世界平和には程遠い。70年前の戦争の反省を継承し、集団的自衛権行使容認に異を唱えるべき。

・政府を翻意させられるか、翁長県政の正念場を迎える。

<困難にも果敢に>

・沖縄の将来にとって、自然を破壊する基地は整理縮小が必要。ユニバーサルスタジオジャパン名護市)、外航航路、国際航路による貨物事業の拡大、ハブ化等「アジアの玄関口」に近づいた。

・豊かな沖縄へと着実に歩みを