研究員のひとりごと

東京自治研究センター研究員のブログ

今回の月例フォーラムは「都市と農」、東京集中政策の矛盾をえぐります。

東京自治研究センター

月例フォーラムへのお誘い

都市と農(食・みどり・水)-社会的共通資本の再構築をー

 東京自治研究センター・月例フォーラムは、この間「子どもを大切にする社会」「男女共同参画がデザインするコミュニティ」「高齢社会の住まい方」などをテーマに、公開講座方式で開催してきました。

 こうした自治体政策の諸課題は、大都市東京の深刻な社会状況を浮き出すとともに、今後の進むべき方向、重点政策のあり方について議論の材料を提供してきました。

ところで、こうした政策課題をつうじて見えてくるこれまでの東京政策とは一体何だったのか、一言で言えば成長一本槍の戦後政策が東京集中政策として集約化されたものではなかったのか、地方の人と富が東京に集中し、巨大化する中で人々の暮らしにさまざまなひずみを生み出しているのではないか、…そうした視点から東京について再度捉え返す必要があるように考えております。

そこで今回の月例セミナーは人が暮らしていく原点に立ち返り、人と農の関係について考えていく企画としました。

目先の対応に追われがちな現実の自治体行政の中で、根幹にかかわる課題として考えていきます。

 

<日程>

  • 1327日(木) 13:30~16:15

    「都市農業の意義と課題、現状」

    講師:武蔵大学経済学部教授   後藤 光蔵 先生

       

     

  • 2412日(土) 13:30~16:15

    「農を通じて、食、みどり、水、そして人を語る」

    講師:NPO法人見沼ファーム21・ 島田由美子理事長

     

  • 3522()  13:30~16:15

    「都市農業の現場から」

    講師:白石農園主・白石好孝氏

     

    会場:中野サンプラザ・セミナー室

脱原発と都知事選挙

脱原発と都知事選挙

 

 1月23日告示、2月9日投・開票の東京都知事選挙の主要な候補者がそろったようです。都知事選挙は巨大都市東京の様々な行政課題とともに、日本の首都としての東京のあり方も問われる二元的な要素が絡み合い、都民の選択というかたちをとりながら日本全体の政治や社会に大きく影響する政治選択です。

 その意味で「東京は日本のエンジン」「東京が元気になれば日本を救える」「東京を世界一企業活動がしやすい都市にする」といった一元的な物差しは、本質的な課題を隠し、一過性のアイデア競争にしかならない危険があると感じていました。現に、石原都政とそれに続く猪瀬前知事は、本質隠しの中で誕生し、当の本人が勝手に投げ出したり「不祥事」を起こしたりで、国政と一体化した東京集中政策のひずみや地方との格差構造など、まじめに考える余地さえも奪ってきました。

 

 そう考えると、前回に引き続き脱原発を掲げて立候補表明している前日本弁護士連合会会長の宇都宮健児氏に加え、細川元首相が小泉元首相と連携し「原発は国の存亡にかかわる問題」として脱原発の立場を明確にしながら立候補表明したことで、多少なりともまともな都知事選挙になった気がします。

 政府はこうした動きに、「エネルギー政策は国政課題」として逃げの姿勢をとっていますが、都知事選挙ではそうした逃げは通用しないでしょう。

なにしろ福島原発事故の責任は東京電力であり、経産省であり、政府与党であり、原子力ムラであり、そして何よりも福島や新潟、青森に原発を押し付け膨大なエネルギーを消費してきた東京にあるからです。

 

与党が支援する舛添要一厚労相は、自民党が政権から転落したあと新党を結成し「原発に依存しない社会を地域から構築する」と主張していたようですが、都知事選立候補にあたって原発問題は一切語らず、今のところダンマリを決め込んでいるようです。安倍政権は、エネルギー基本計画に「機関エネルギーとして原発再稼動」を明記し閣議決定しようとしています。一方、東京電力柏崎刈羽原発の再稼動を会社存続の至上命題としています。舛添さんはこうした動きにどう対処しようとするのでしょうか?オリンピックは2020年ですが、再稼動は今夏の課題です。

 

 ところで111日付け朝日新聞のオピニオンの紙面で、作家の矢作(やはぎ)俊彦氏は「(1964年の東京オリンピック)日本中の人とモノが濁流のように(東京に)集まり、それまで都市と農村の乖離であったものを、東京と『その他』の乖離に変えたとも言えるだろう。」と語っています。この話は、日本の「敗戦」、復興、国威発揚とオリンピックについて論じたものですが、ここでもう一つ考えなければならないことは、その舞台は「東京」でなければならないということです。大阪でも福岡でもなく東京だということです。

明治・大正期の富国強兵策、昭和初期の侵略政策の時代はもちろんですが、戦後約70年近い日本社会も東京集中政策を機軸に動いてきました。都知事選挙を前に、こうした現実を検証し、東京以外を「その他」とするような東京のあり方がいいのかどうか、エネルギー政策、原発問題の中から考えていくべきです。

間違っても「2020東京オリンピック成功のためには(『その他』、地方の)原発が必要」といった話にだけはならないような名候補者への都民の選択を願っています。

2014年を迎え「研究員のひとりごと」を再開します。

2014年を迎え「研究員のひとりごと」を再開します。

 

 関東地方は穏やかな新年を迎えました。そして今年は平成26年、昭和から平成に変わり既に25年、平成の時代も四半世紀の時を刻んだことになります。昭和生まれで昭和育ちの私にとって、「平成」という響きに歴史としての重みはさほど感じていなかったのですが、一方では、昨今の政治状況もあって、四半世紀という単位の歴史の歯車が軋みあう音が聞こえてくるような気がします。

 

 振り返ってみると、25年前の1989年はベルリンの壁が崩壊し世界体制の枠組みが大きく変わり始め、国内的には、初めて消費税3%がスタートし、労働界も総評解散、連合発足という再編がされました。

さらに25年前の1964年はトンキン湾事件ベトナム戦争が本格化するとともに東京オリンピックもこの年に開催されました。

もう25年前の1939年はナチス・ドイツがポーランドへ侵攻し第二次世界大戦が勃発。100年前の1914年は第一次世界大戦がはじまった年です。ちなみに125年前の1889年は明治憲法皇室典範が発布されています。

こうしてみると、明治・大正・昭和そして平成の25年を含めた日本の「近代化」は前半が軍事力基軸で、後半は経済力基軸で成し遂げられたように見えてきます。

2014年を迎え、この時代を読み解くうえで、歴史を多少大きく俯瞰してみていく必要があるのではないか。―そんな気持ちで四半世紀単位の「新年」を考えてみました。

 

そこで昨年末、共同通信の世論調査が実施されたところから話を始めます。

世論調査というと内閣支持率とか政党支持率が話題の中心になりますが、もちろんそうした項目も調査対象でしたが、同時に実施された靖国問題や沖縄米軍基地問題について、日本社会の歴史認識や戦後史の見方について考えさせられる結果が示されました。

具体的には、安倍首相の靖国神社参拝を「よかった」とするが43%、靖国参拝に対して中国、韓国はもとよりロシアや米国からも懸念の声明が出されていることに対して「配慮する必要はない」が25%、「A級戦犯の分祀はしない方がよい(今のままでよい)34%、「沖縄・普天間基地辺野古移設」に賛成が50%、「沖縄県仲井真知事の辺野古埋め立て承認を評価する」が56%となっている点です。

靖国」問題については多くは触れませんが、前段で「日本の近代化は、前半において軍事力を基軸に成し遂げられた」と記したその軍事力を担い戦死した軍人・関係者が祀られているのが「靖国」です。そして日本はこの「軍事力による近代化」に失敗し、二度とそうした選択はしないということで連合国をはじめとする国際社会に復帰し、戦後の経済発展を実現しました。

あらゆる戦争、軍事行為には「理」がないと言い切れないかもしれませんが、日本近代化の前半における軍事は「侵略」以外の何物でもありません。間違っても「防衛」ではありません。ということは、軍事の向こう側には、理不尽な被害を受け命と財産を暴力的に奪われた多くの人々が存在し、その歴史が今も息づいている訳です。

首相の靖国参拝を肯定し、他国の「非難」に耳を傾けず、国際社会で戦争犯罪人として処刑された戦争指導者も「尊崇の念で慰霊する」方がよいとする考え方が1/3程度日本社会に存在するということに、かつての戦争を肯定するかのような危惧の念を抱かざるを得ません。

沖縄米軍基地問題も、ある種同根です。ヤマトは沖縄地上戦で沖縄を本土決戦の「捨て石」に、サンフランシスコ講和条約で沖縄を米軍統治のまま「切り捨て」し、復帰後も米軍基地の固定化という「踏み台」にして経済成長を続けてきました。ヤマト、つまり[本土]は沖縄の犠牲の上に成り立つ差別者の歴史を刻んできました。これが歴史です。

辺野古への米軍基地建設に賛成し、そのための県知事の埋立承認を評価する世論が1/2に達するという現実は、都合の悪いことは忘れ、踏まれた者の痛みは分からない差別者の構造を感じます。

 

平成の四半世紀が、これまで積み上げてきた明治・大正・昭和の四半世紀の中でどう考えるべきか、例年より多少長い正月休みで考えてみました。

 

そこで今回の「ひとりごと」…「近代化、経済発展の中に潜む魔物を、近代化と経済発展の象徴でもある東京政策の中からあぶりだしていく作業が問われているのではないか」・・・今年のテーマとして考えたいと思っております。

 

前置きが長くなりましたが、多少説明を要する「研究員のひとりごと」と思ってご容赦のほどお願いいたします。